ARTIQ JOURNAL / No. 06 / GÉRALD GENTA / DESIGN

ジェラルド・ジェンタ。
時計の輪郭を変えた男。

ロイヤル オークとノーチラスだけでは終わらない。ポールルーターからクレドールまで辿ると、「時計界のピカソ」という呼び名の先に、丸い時計の作法を疑い続けたデザイナーが見えてくる。

ARTIQ EDITORIAL · 2026-09-20 · 約5分

広告リンクを含みます。

資料写真を参照したAI再構成
  1. 1954Universal Genève / Polerouter
  2. 1972Audemars Piguet / Royal Oak
  3. 1979Credor / Locomotive
01

名前を覚えるより、線の行き先を見る

ロイヤル オーク、ノーチラス、インヂュニア。人気モデルの名前を覚えたあとでジェンタを知ると、ブランドをまたぐ似た感覚に気づく。ベゼルで止まらない線、ケースからブレスレットへ続く面、ネジや開口部を隠さず見せる構成。時計の外側が、ひとつの設計になっている。

「時計界のピカソ」は、その創造性を伝える比喩だろう。けれど肩書きだけでは何も見えてこない。彼の時計を読むには、文字盤を一度脇役にして、輪郭がどこへ続いていくかを追う。その見方は、有名な三本以外にも使える。

02

ポールルーターから始めると、話が広がる

ジェンタの仕事を1970年代から始めないでみよう。1954年のユニバーサル・ジュネーブ、ポールルーターは、SASの北極航路に結びついた時計として財団の資料に紹介されている。[1] ロイヤル オークの角張った印象だけを知っていると、こちらの曲線は意外に感じられる。

同じデザイナーでも、すべてが同じ形になるわけではない。依頼したブランド、用途、時代によって答えは変わる。ポールルーターを候補に入れると、ジェンタを「一体型ブレスレットの人」とだけ覚える狭さから抜け出せる。

03

1972年。スティールの時計が、別の価値を持つ

オーデマ ピゲのロイヤル オーク5402は1972年に発表された。公式アーカイブを読むと、一晩のスケッチの物語の後に、開発と製造の時間があったことが分かる。[2] アイデアだけで完成したのではなく、薄さ、外装の仕上げ、ブレスレットまで含めて一つの製品になった。

高級さを貴金属の重さだけで説明しない。スティールの面をどう仕上げ、どう連続させるかで価値を作る。その視点で見ると、ケースに残る面やブレスレットの輪郭を大切にしたくなる。研磨の有無を善悪で決めるより、造形がどう変わったかを読むほうが面白い。

04

ノーチラス、インヂュニア、そして日本へ

ノーチラスとインヂュニアSLは、ともに1976年の仕事としてジェンタの資料に登場する。[1] 同じ1970年代の空気を共有しながら、ベゼルの輪郭はそれぞれ異なる。そして1979年には、クレドールのロコモティブが生まれる。[3]

六角形を繰り返すロコモティブを加えると、ジェンタの地図はスイスの三大モデルから日本へ伸びる。著名な時計の形だけを借りたもの、という説明では足りない。クレドール自身が彼の仕事として記録するデザインを、その文脈ごと見る。国産時計とスイス時計を別々の趣味にしなくてもよいと気づかせる一本だ。

05

「ジェンタ風」と「ジェンタ作」を分けて探す

一体型ブレスレット、八角形、ケースに見えるネジ。それだけでジェンタ作とは断定できない。影響を受けたデザインと、本人の関与を資料で確認できるデザインは分けて楽しみたい。出品タイトルの一言より、ブランド資料や型番の確認を優先する。

純正のブレスレットや専用の接続部を持つ時計では、欠品が外観と使い方の両方を変える。コマ数、可動部、修理の可否まで見ておきたい。ジェンタという名前を買うのではなく、一本の線が時計全体をどうまとめているかを買う。その選び方なら、神話の外側にも面白い時計が見つかる。

MODELS IN THE STORY

この記事の時計。

SIGNATURE MODELS

代表モデルを探す。

記事に登場したブランドから、いま探しやすい定番を。歴史資料のモデルとは年代・仕様が異なる商品も含まれます。