ARTIQ JOURNAL / No. 02 / QUARTZ / THE REVOLUTION

クォーツは、
安い時計ではなかった。

1969年のアストロンは45万円。水晶は、かつて未来そのものの値段だった。ROLEXのオイスタークォーツ、OMEGAのマリンクロノメーターまで追うと、「機械式だから高級」という物語が少し違って見える。

ARTIQ EDITORIAL · 2026.10.11 · 約5分

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資料写真を参照したAI再構成
  1. 1969SEIKO Quartz Astron
  2. 1974OMEGA Marine Chronometer
  3. 1977ROLEX Oysterquartz
01

クリスマスに発売された、45万円の未来

1969年12月25日、セイコーはクオーツ アストロン35SQを発売した。金無垢ケースに収められた新方式の腕時計は45万円。当時の大衆車に並ぶ価格だったと、セイコーミュージアムは記録している。安く作ることから始まった時計ではない。研究室の精度を、腕の上に持ち出すこと自体に価値があった。[1]

いま電池交換で動く時計を日用品として見られるのは、成功の結果を知っているからだ。当時の目で見るなら、これは高価な未知の機械である。「秒針が一秒ずつ動くから安い」という感覚をいったん忘れると、初期クォーツの大胆なケースが未来の器に見えてくる。

02

水晶の振動を、生活のリズムへ

クォーツ時計では、水晶振動子の規則的な振動を電気回路で数え、表示へ伝える。主流となった32,768Hzは、水晶を使う時計のすべてに当てはまる数字ではない。初期には複数の方式が競い、振動子、消費電力、電池、駆動部の小型化がそれぞれ難題だった。[1]

ここが面白い。完成形を知った私たちは、技術の選択に迷いがあったことを忘れる。大きなケースも独特な文字盤も、流行だけでなく、内部をどう収めるかという問いと一緒に眺められる。薄い機械式を磨いた時代から、電子回路の居場所を探す時代へ。時計の形には、その思考が残っている。

03

ROLEXも、水晶に自分の答えを出した

ロレックスは1977年にオイスタークォーツを発表した。公式の歴史資料には、自社製クォーツムーブメントを搭載したモデルとして記されている。機械式の代用品をただ仕入れた、という話ではない。[2]

オイスタークォーツの17000を見れば、普段のデイトジャストとは違う輪郭がある。ケースとブレスレットが連続し、エッジが時計の印象を作る。ここで「ROLEXの最上位はすべてクォーツだった」と話を膨らませる必要はない。高級時計メーカーが自ら開発し、ブランドの名前を載せた。その事実だけで、安物という固定観念には十分な反証になる。

04

OMEGAが腕時計に求めた、航海用の精度

1974年のOMEGA Megaquartz Marine Chronometerは、精度を競う別の到達点だった。公式アーカイブに残るマリンクロノメーターという名前は、船の計時を連想させる。ケースの存在感も、文字盤上の情報も、精密な測定器を腕に載せるという発想で見ると筋が通る。[3]

アストロン、オイスタークォーツ、マリンクロノメーター。これらを一列に並べると、クォーツは単一の安価なカテゴリーではなく、各社が未来を描いた舞台だったと分かる。日本の突破口を讃えながら、スイス側の研究も同じ画面に入れる。そのほうが、この革命の大きさが見える。

05

パテック フィリップ3954。クォーツにも、最高級の居場所がある。

クォーツと高級時計の関係は、精度競争だけで終わらない。入荷したパテック フィリップ3954/10は、その後のドレスウォッチに目を向けさせる。白いローマ数字文字盤には時針と分針だけを置き、細かなベゼルと金のメッシュブレスレットが装いの中心になる。

付属書類の機構表記はE23 quartz。初期クォーツの研究開発競争とは時代も役割も異なるが、水晶の機構と貴金属の工芸が両立することを、具体的な一本で示してくれる。「電池式だから」という一言で、この時計を選ぶ楽しさは片づけられない。

この時計を、かつてのクォーツ精度競争の最高峰と呼ぶ必要はない。3954が教えてくれるのは、最高級時計をつくるメゾンが、クォーツにも装うための価値を託したということだ。機械式か電池式かだけで高級を決めると、薄い二針の顔とブレスレットの細工を味わう機会を逃してしまう。

06

いま買うなら、電池の先を確認する

古いクォーツで知りたいのは「現在動く」だけではない。電池室の腐食、回路やコイル、液晶がある場合は表示、そして整備を引き受ける先。機械式とは違う部品の事情が、日常使いの可否に関わる。

安い出品を見つけても、修理費を単純に足せるとは限らない。初期の高級クォーツを探す楽しさは、歴史と工業デザインを買う楽しさでもある。裏蓋の中を想像しながら、動作記録と整備の相談先が説明された個体を選びたい。水晶が価値を下げるのではない。何が作られたのかを知らないことが、価値を見えなくする。

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